私が台所に立てば、台所に。
私が書斎に行くと、書斎に。
私が化粧をすれば、脱衣室に。
私が居間にいると、居間に。
私が寝室で夢を見ると、寝室に。
2匹の犬はいつでもどこでもついてくる。 |
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梅雨真っ直中のある日、友人は車を走らせていた。
視界の悪いウィンドウ越しに、何かが動いた。
雷を伴ったこの雨の中、小さな犬がトボトボと歩いているのだ。
コーギーではないか、コーギーが車道を歩いている。
友人は慌てて路肩に車を停めた。
コーギーは怯えて途方にくれている。
友人は忍耐強くコーギーを追った。
ようやくのこと、友人はコーギーを車に乗せることに成功した。
友人宅にはすでに2匹の愛犬、コーギーがいる。
友人は最悪、3匹の犬を飼うことになろうかと、腹をくくった。
しかし、大人しいこのコーギーが捨て犬のはずがなかった。
広告を出そうとした矢先、新聞に迷い犬の掲載があった。
まさしく、このコーギーだった。
飼い主は10日ほど、狂おしいほどに探し回ったようだ。
良いことをしてあげたねと私たちは喜び合った。 |
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電話の向こうで友人が泣いている。
迷い犬のコーギーが死んだのだ。
飼い主の手元に戻ったことを、うきうきして私に伝えたばかりだったのに。
散歩の途中の交通事故だったらしい。
友人は手元に置いた短い日々に、このコーギーに愛情を持ってしまった。
ご主人と丁寧にシャンプーしたこと、自分の愛犬たちと仲良く寝泊まりしたこと。
あれもこれもが友人を悲しませた。
10才の命を閉じたコーギー。
飼い主の家族は居たたまれぬ思いでいることと思う。
私があのまま飼っていたらよかった。
・・・でも、飼い主の手元で死んだんだからよかったよね?
相反する気持ちが彼女の中でぐるぐる回っている。
友人を慰める方法は一つとしてない。
しっかりと悲しみを私も受け止めたから・・・と、言うしかなかった。 |
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あれはイヴがまだ2才くらいの時だったと思う。
ある日、主人と私とイヴは、居間でのんびりと過ごしていた。
そこへ、ゴキブリが突然、乱入してきたのだ。
私たちの平和な空間は乱れた。
慌てふためきながら、私とイヴは廊下へと逃げ込んだ。
主人は機関銃を殺虫剤に持ち替えて、発砲・・・、いや、シューしていた。
私は戦況状態を伺うべく、そっとドアを開けて中を伺った。
ところが、その時である。
後ろにいたイヴが、いきなり私のTシャツの背中をくわえて引っ張るのだ。
居間に行ったらいけない!危ない!と、言わんばかりだった。
ゴキブリ退治を終えた主人は、ボクのことは心配じゃなかったのかと鼻を鳴らした。 |
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時折、笑う犬がいる。
口角をきゅっと上げて、あたかも笑っているようにみえるのだ。
田原先生の家の犬も笑う、ベルナも笑う、リンダも笑う、イヴも笑う。
・・・でも、悲しい犬は悲しい顔をしたままだ。 |
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