夜の10時くらいだったでしょうか。
一本の電話で私はエルの元へと車を走らせました。
エルはナナの娘犬です。
彼女は大事なお産を控えてました。
エルはなるほど呼吸も荒く、なんども落ちつきのない素振りを見せています。
しかし、エルの出産にはまだ少しの余裕があると私は判断しました。
帰ろうとしたその時です。
ソファにうずくまっていたエルの側から、「生まれた!」と叫び声が上がりました。
エルの家族はお父さん、お母さん、子供達4人です。
家族の見守る中、エルは次々に出産をして行きます。
すでにイヴとナナの出産に付き合った私でさえも、
新たな感動で心がいっぱいになりました。
初めての出産に立ち会う家族はもちろんのことです。
さぁ、7匹の子犬の誕生です。 |
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この世界にデビューした子犬たち。
支えがないとエルのオッパイからはずれそうなほどに儚い存在の彼ら。
母のミルクを求めて本能だけではい回る姿に生を感じる。
目も見えない、耳も聞こえない。
それでも母の元へと確実に導かれる。
母と子犬の結びつきは、私の心にピリピリとした感動を与えた。 |
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一匹だけ様子のおかしい子犬がいます。
エルのオッパイを飲んでいる素振りは見せるものの、どこか勢いがないのです。
土曜の夜はどこの獣医さんも電話の応答がありません。
一件だけ見つかった病院へと私たちは向かいました。
話し合った結果、チューブの栄養補給で様子を見ることにしました。
この子犬の世話をするのは、4人の子供達です。
子犬の名前も付けました。
「ハッピイ」です。
どうぞ、子供達の願いを聞いてね、神様。 |
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4月3日の午前中、エルの飼い主さんから電話がありました。
朝方にハッピイが亡くなったようです。
僅かに3日の命でした。
ですが、この子は命の尊さを、エルの家族である4人の子供達に教えたのです。
誕生の喜び、死の悲しみを、です。
3日しか生きなかったハッピイは、多くのことを子供達に託してこの世を去りました。 |
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エルはナナの末っ子娘です。
少しだけ他の兄や姉たちやに比べて小柄なエル。
気だてが良く、まさにラブの優しさを持った犬です。
祖母であるイヴの性格がそのままに現れているような気がしてなりません。
年に数回しか会わないのに、私に変わらぬ愛を持って接してくれます。
そのエルが真っ先に母犬になりました。
しっかりした栄養を採っているにも関わらず、毛並みの美しさも体重も落ちました。
しかし、彼女は美しい子犬たちを誕生させたのです。
この素晴らしい子犬たちがどうか幸せに生きますように。
神様、よろしくお願いします。 |
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それぞれの子犬たちの行き先が決まりました。
幸多かれと願うばかりです。
イヴやナナやエルの幸せの星を持っている子犬たち。
きっと大丈夫ですよね? |
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